FC2ブログ

アトリエ水平線より

渡会審二の写真日記

モノクロフィルムの広告撮影体験記 

0312.jpg

ちょっとブログを休んでいました、ここ一週間くらいずーっと暗室とデジタルデータ作りのぶっ通し作業でやや睡眠不足気味なくらいの状態でしたが作業を昨日やっと終えて無事に納品し一段落しました。
その作業内容は久しぶりにアナログモノクロフィルムの広告作業でした、この時勢に敢えてモノクロフィルムで広告制作作業をやって見ていくつか感じたことがあります、この時代にはとても稀なケースと思うので参考になる人はここに書かれた事を参考にして下さい。

始めにこの仕事を指名された時、大量なカット数をモノクロで撮ると聞き、ボクは「デジタルで撮ろうか?」と云うと相手方のADは「オレはフィルムでやりたいからワタライさんに頼んでいるんだよ」と云われた。
始めは「ふ〜ん、フィルムで撮るのか?」ぐらいに軽く思っていたけど、現実に打ち合わせして考えるとフィルム本数は予備を入れて今のうちにブローニー100本くらいすぐ確保する必要があると思った。
この時勢で100本のモノクロフィルムが本当にすぐ揃うのか?打ち合わせが終わったその足で渋谷ビックカメラに行き在庫はすべて押さえたが、やはりまだ充分な数ではなく他からもかき集めてやっと100本のフィルムが確保出来た。
この時フィルムで撮ると云うことが本当に特別な事になったなと新ためて実感した、最近の若手のグラフィックデザイナーたちはフィルムで仕事をした事がない人たちも結構な数いるらしく、ちょっと甘く見ていると当日まで必要な感材が手元に揃わなくフィルムがいよいよ特別に存在になってボクにはちょっと笑えない時代になりました。
さらにISO100のモノクロポラがもう入手出来なくなりました、ISO3000はあったけど本番フィルムISO100に対し感度差がありすぎて却ってややこしくなりそうでカラーポラで行く事にしました。
絵柄とライトチェックだけならポラを使わないで別のデジカメでライトチェックは充分可能ですが、やはり実機チェックは絶対に欠かせません、まさか機材やレンズにトラブルが出ていることはよくあることです、本番機の確認は失敗の許されない広告撮影の鉄則です。

そしていざ撮影前に予算計算するプロデュ—サーと感材費についてやり取りして気がついたのですが、最近の若い世代はフィルム撮影がデジタルに比べてどれだけ感材費にお金がかかるのかまったく検討が付かない人が多いのです。
フィルムはデジタルにくらべて予算がかかります、デジタルだろうがフィルムだろうがどっちでもいい人にしてみたら敢えて口にしないけど「お金がかからないデジタルにして欲しい」とマネージメントスタッフは不要な出費は出来るだけ削りたいのが本音です。
現状フィルム経費はそのまま撮影ギャラから差し引かれている場合すらあると思います、それならデジタルで撮る方が撮影ギャラの取り分が増えるからデジタルにすると考えても不思議はないと思います。
最初に相手側から提示された感材費は想像以上に低かったけど実情を話し予算設定を上げていただいた、でもまだ本当は本来の半分くらいしか請求出来ないのが現実です。
さらに作業日数もとても限られていてフィルム現像から仕上げの画像をデジタル加工まですべて自分でやらない事にはこの仕事は多分応えらなかったと思います。

わざわざフィルムの仕上がりを期待して仕事が発注されたのですが、そこを普通のアナログモノクロプリントで納品したところで、普通の目から見れば「デジタルとフィルムがどう違うのか?」と感じたとしても仕方がないと思います。
多分、指名したAD以外は誰も写真に対して目が肥えているとは思えないスタッフに対して、わざわざ高い予算をかけてフィルムがやはり優れていることをボクはみんなに納得が出来るようにする必要があると思いました。
アナログか、デジタルか、果たしてどっちに軍配が上がるか?ただ何となくアナログの方が優れている、そんな 迷信めいたフィルム崇拝論では現実的に予算を管理する人たちにとってなんの意味もありません。
「こうだからアナログの方が優れた表現力があります」と云う点を誰に対してでも納得が行くよう明解にする必要があると感じ、ボクはセレクトされたカットすべて2枚づつ焼きました。
一方をそのままプレーンなモノクロプリント、もう一方を淡くブラウン調色仕上げしました。しかしそのための作業費は出ないも同然でしたがそこはボクには意地がありました。
調色はデジタルだって充分出来るじゃないかと云う意見もあると思います、でもボクの調色はデジタルの均一な調色ではなくアナログじゃなければ出来ない風合いのある調色です、調色が乗るところと乗らないところがある手作業が感じられる味のある調色です。だから敢えて調色が一定にならない様に気を使って調色作業を心がけました。
ここで誤解がないようにひと言、云いたいのはボクはスポンサーに対して説得のためにわざわざ調色処理を施したのではなく、あくまでそこはきっかけであってボクがそれをしたいからしたのです、だから採算は完全に無視です。多分これはボクを指名したADに対しこう言うカタチで返礼をしたかったのでしょう。
しかし現実問題、調色処理には大変にリスキーな点が多く、まず限られた過酷なスケジュールの中でするのですから睡眠時間は確実に削られます、また調色ムラが起きやすく、また調色が乗りすぎてダメになったり、失敗になってしまう確率がとても高いのが現実です、またそれが例えキレイに調色されたとしてもそれがスポンサーイメージと逸脱する可能性も充分考えられます。
上手くハマるか?儚く外れるか?はボクにも確信はなく、やってみなくては分からない、ただ調色1本だけで行くにはあまりにも危険性が高く、時間的に引き返す事も出来ず、やはり逃げ道としてプレーンなモノクロプリントも平行して作るしかなく、それには手間とヒマがかかりました。
デザイン事務所に納品し、Mac画面上にレイアウトされたものを見た感じでは、まったく外れた感じはなく、調色しないものより迫って来るものがあって見事ハマった感じがしました、その目で新ためてプレーンなモノクロを見て、これがそのまま印刷物になっても多分アナログもデジタルも変わらないだろうと思いました。
やはりせっかくアナログで作ったならアナログの優れたところを引き出さないと高い経費は無意味になってしまいます、そうなったら高い経費は作り手の自己満足で終わってしまうと感じました。それではボクにとってまったく意味がない気がしたのです。
逆に云えばボクら作家性表現力を持った写真家はここは本当に見せ場なのです、普段から作品作りをしている意味はここで発揮出来るのです、もしボクらはここで期待にしっかり応えられなかったなら、効率的な広告カメラマンに勝るモノは何もないことになってしまいます。
何となく曖昧なところでアナログ崇拝に陥るのではなく、アナログはデジタルにくらべてここが優れているからフィルムで撮りたいとスタッフに対し明確に見せ所をハッキリと提示する必要があると思いました。
そしてそこを限られた作業日数で確実に仕上げて納品しなくてはなりません。今回ボクを指名してくれたADはそれに対し非常によろこんでくれました。
今回の作業は連日睡眠時間を削ってのハードな作業だったけど本当に良い出会いが出来た仕事であり、爽快な疲労感だったと感じ、個人的な作品活動では味わえない別の歓びを感じた仕事だった。

今回貴重なモノクロの仕事をさせてもらって感じたのは、ボクは現在モノクロ中心に作品活動をやっています、しかしそこで得られるのは個展でプリント販売ぐらいが精一杯で、まさかモノクロ作品で現実に仕事に繋がるとは考えていなかった。
作品活動するには暗室施設も必要です、印画紙だって、薬品にも、フィルムだってお金がかかります、しかし、プリント販売なんて本当にたかが知れていますが、でもそうは云え、やはり写真家は作家性が求められてナンボなのかも知れないことを今回実感した仕事でした。
そして最後にボクがプリントし調色してデーターまですべて自分自身で作りました。それはスキャナーにかかる予算、作業日数がなかった事とせっかく調色処理までしてデーターの時点で作った表現が壊されるのはちょっと堪え難くそれらの作業までも自分から引き受けました。
でもデジタルデーターに関してボクは素人同然です、トーンジャンプは絶対に起こさないように細心の注意をしながら、ジャンプが出そうなデーターはリセットし取り直したり時間をかけてデーター作りをしました、しかしこれは大変に貴重な体験をしたと思います。