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アトリエ水平線より

渡会審二の写真日記

ある男と山岳民族の村に行った話(3) 

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さて真っ暗闇の山道を歩かなければならないハメになってしまった。
実はここが書きたくて、この話を書き始めたんですがどうせ書くなら経緯からすべて書き始めました。

日は残っている、あと1時間くらいならなんとか明るさがまだ残ると判断した。
通って来た山道を思うと、とにかく道が一番悪くて歩きにくい箇所は日がまだあるうちに歩かないと、大変な目に遭うのはザオウェン(一緒にいた中国人)も分かっていた、山道に迷ってどこかに入り込む心配はなかった、でも月の光はほとんど期待は出来ないのは分っていた。
明るいうちに黙々と早歩きし始めた、唯一、救いだったのは登りじゃないことだった、途中2〜3戸の集落には放し飼いの犬が数匹いた、でもその脇を通るしかない、気がかりはそこだけだった。
真っ暗闇で犬たちに威嚇されたらこっちはまったく手が出ない、出来る事は何もない、もし飛びつくなら、犬の好きなように飛びつかせるしかない、そこが最大の心配事だった。
歩き始めて1時間くらいたっただろうか?いよいよ日が暮れた、周りはまったく見えない、本当に何も見えない、足下すらハッキリ見えない、見えるのは目の前の山の稜線と空の境目が微かに見えるだけ、多分月はその裏側にあるのだろう、とにかく見えない。これが漆黒かと思った。
自分の前が見えない、道はわずかに白く微んで見える、そこを歩くだけ、なんとなく道がありそうだから、そこを歩くだけ、そこに道がある確信はまったくない。
正直な話、こんな山道を懐中電灯もなく歩くなんて、今後もう二度とないだろう、でも怖い感覚は意外になかった、そんなことより必死だった、とにかく歩き続けるしかない、前を行くザオウェンはどうしてスタスタと歩けるのか信じられないくらい早く先を行く。
途中落差がいくつかある難所はなんとか通り抜けた、次は犬と思っていたころ、小さな灯りが微かに見え始め数匹の犬がいっせいに吠え始めた、意外だったのは覚悟していたよりは吠えなかった、そんなに心配は要らないと安堵した。
時おり道に大きな岩が転がっていた、岩にブツかり何度か転んで手足に擦り傷を負った、こんな状況で歩くのは本当にキツい、歩けど歩けど一向に目が馴れない、相変わらず先は見えない、足下に微かに光って見える物があるが、それは白く枯れた小枝だった、それは何とも不思議だった。

順調に進んでいるから良いと云えば良い、絶望的で泣きたくなると云えば、確かに絶望的だった、どうにもでなれた気分だった、ここまで来るとハイな気分だったと云えばハイだった、歩くのを止めて朝までここで待つ考えもあったがザオウェンは構わずスタスタ先を行くからボクも彼の後をついて行っただけだった。
もしザオウェンがいなかったら間違いなく一人で山道を歩くことは出来なかった。
誰もいないシーンとした山の中をたった一人の感覚を知ってるだろうか?結構怖い、何とも云えない、どうにもならない恐怖感と戦うことになる、でも何度も繰り返すと馴れてそのうちに何ともなくなる。
そんな雑多なことを思いながら歩き続けていたら、空が微かに明るくなり開けたところに出た気がした、街の光が空に反射したところに出た、特に街が見えたわけではないが、間違いなくこれは街の光の気配だと確信した、同時に先が見えた、ザオウェンと一休みし水を廻し飲みしてお互い握手した。
街に降りたのはすぐだった、まず彼と最初に出会った食堂にそのまま行った、晩ご飯を食べながらビールでお互いにカンパイした、日本語で「カンパ〜イ」と云うんだと教えた。

翌日、彼とまた会ってお別れをした、その時、彼はボクにこう云った、やり取りは筆談だった、「あなたの写真術はとても素晴らしい、ボクを日本に連れて行ってくれ、そしてその写真技術を教えて欲しい」と云われた。
その場でその場でポラ写真を撮って、彼らにポラ写真を渡した、その後フィルムにマガジンに変えて撮影した、彼にとってそんな撮影は見たことがない撮影法だったと思う。