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アトリエ水平線より

渡会審二の写真日記

羊と鋼の森を読んで 

最近、本屋大賞を受賞した今話題の「羊と鋼の森」と言う本を読みました。
さて本屋大賞という聞き馴れない新しい賞を受賞した本とはどんな本だろうと興味が出ました、さらに僕は限られた範囲の作家しか読めないのでもう少し領域を拡げたいと思いこの本を読んでみました。
感想は期待は外れこの本が良かったと思いませんでした、中身に引き込まれる要素はありません、文にキラリと来る魅力もない、登場人物にも魅力を感じない、作品に夢とか世界観を感じない、これと言った物語の力もない、ただ時々はっと何かを思い出させるようなフレーズがありますが、それが唯一の救いかな?
話の内容は駆け出し調律師の淡々とした平凡な物語です、特に盛り上がりもないし、淡々とした展開で始まって淡々と終わります、多分今後この作家が何かのきっかけで突然好きになることはまずないと思い、我慢しながら最後まで投げないで無事に読み終えました。まるで何かの約束を果たし終えたような気分です。
でもだからと言ってこの本が酷評に値する駄作だとも思っていません、ただ僕の好みと価値観に合わないだけと思っています、ちょっと唐突ですがこれを読んで感じたことですが、これが本屋大賞ならば村上春樹氏がどれほど稀有な優れた作家であるかを新ためて再認識させられました、もちろん世の中には村上春樹氏こそ肌に合わない方もいるでしょう、強い個性ですからいたとしても全然不思議ではないです。
僕にとって彼がどう優れているか、それは彼は作品にプライドと責任感を強く持ってます、自分の本を買ってくれる読者を絶対に失望はさせてはならない、ステキな話を書いて夢を味わっていただこう、さらに彼にはおもしろい物語とつまらない物語、ここに明確な違いを認識していると思います、そしておもしろい物語は人の心を動かす力があることをよく知っている人だと思います。早い話がこれらに対し曖昧ではないということです。
しかし残念ですがこの本にはそんな骨太な気迫はほとんど感じられません、もちろんこの作家なりにあるのかもしれない、仮にあったとしても僕にとってはそれは弱々しい印象しか感じられません。
それは各作家の生まれ持った人間力とか作家性の器みたいなものですから、作家の優劣をここで比較して書き連ねてもあまり意味はないでしょう、でも物語には人の心をグッと捉えるものと、平凡で淡々と掴みどころのないものがやはりたしかにあるなと思います。
今日ここで書きたいことは、広く出回っている作品とは必ずしも力のある作品ばかりではなく、掴みどころのない作品も意外に多く出回っていることを今回の読書を通して感じました、それは僕が思っていた以上にそれが居場所を持って堂々と世の中に受け入れられている事実です、これには僕はいささか驚きました。
この本についての世の中の評価をアマゾンのプレビューをざーっと読んでみました、さすがに本屋大賞を取っただけあって星5つ4つの高評価がパラパラ目立ちます、でも厳しい辛らつな意見を書く人もいました。特に音楽に精通する人たちの批判は厳しいものがありました、また中にはこの本の「浅さ」を書いている人もいました。
この物語のテーマ、音楽について、造詣が浅い、取材が甘く書き込みが浅い、などの批判についても目立ちました、でもこれは音楽の技法書ではなく音楽にまつわるファンタジー小説なんだからあまりしつこく突くのはよろしくない意見もあり僕もそれに同感です、共通した批判としてはやはり「奥行きの浅さが気になる」同じことを僕も感じました。
最近よく感じることですが表現作品一般に、浅い、薄い、中身がない、そんな作品がどうして表立った場でもそこそこに受け入れられるのか、その理由が分かりませんが「箸にも棒にも掛かりそうもない作品」でも意外にも世の中で居場所を持っていることです、自分はそんな作品だけには絶対作ってはならないように気をつけていましたが現実はそうではないようです。
でもこの作品を読んで、もう一度深く感じたのは、そういう「薄い」作品が思った以上に世の中で受け入れられています、 むしろ最近の傾向はそういう作品が殊の外、多くそれがついに大賞作品になれることが僕なりにショックでした。
この作品の捉えどころのないような男子草食系主人公の、淡々とした、ボヤけた、抑揚のない、退屈な物語、にファンタジーと好感を感じる、そんな意見が意外にも半数以上もあった事実、さらに本屋さんの店員さんたちからも支持され大賞を受賞した事実、その一般的な感性とその現実、もはやこれは良いとか悪いとかではなく、なんだかどうとも言えない割り切れないような行き場のない気持ちに僕はなりました。
そういう意味では僕が知らなかった新たな時代感覚をこの本を通して感じただけでも良い勉強になった、という言い方だってできます。
さて果たしてこの作品がそれなりに時を経ても人の心の記憶にいつまでも残れるような作品になるのでしょうか?そこが疑問ですが。

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