fc2ブログ

アトリエ水平線より

渡会審二の写真日記

長い旅を振り返って 

_IGP2189.jpg

長かった旅を終えて帰国した、半年もアジアを放浪し成田に着いた時の印象は、帰国時の成田空港の雰囲気だけは馴染めない、率直に「ああ、帰って来てしまった。」という重たい気分になる。都心に近づくにつれて車窓から見える街の風景、日本の人の暮らしには生気が感じられない殺伐とした空気にしか見えない、これは何度見ても気分が重たくなる。
夢は終わった、これから現実生活が始まる、この気分は一体どう表現すれば良いのだろう、笑い事じゃなかった、決して現実から逃避していたいワケではない、夢に浸り続けた夢想家でもない、日本の生活感覚はあまりにもシビアな現実ごとが多すぎて逃げ場がどこにもなく精神的に持たなかった。いくら頑張ろうと自分の尻にムチ打ったところで逆効果でモノが余計に見えなくなるばかりだった。
僕にとってアジアの旅は感覚がフル回転し機能していた、でもあの当時、日本の生活は現実的ですべて忙殺され感覚は上手く機能しない、ものごとを感じるゆとりある生活環境じゃない。まだその現実を上手く生き抜く力不足の僕にはそれが対処できなく疲弊した。これは多分いくら書いてもただの言い訳にしか聞こえないだろうが僕にはそうとしか言いようがなかった。だからカメラマンになる努力は誰より真剣だった。

旅で撮った写真をプリントした、良い写真が何枚かあった、物足らないところもあったが良しとしよう、日本で悶々としていたよりはずーっと前に進んだのは確かで旅の選択は本当に良かったと思った。
出る前はこんなことばかり考えていた、食べて行く仕事を取らなくてはならないから作品がいる、その作品は広告的なモノじゃないとダメだと思っていた、スタジオでモデルを撮る、物を撮る、それ以外通用しないと本気で思っていた、アジアで街とか人を撮っても誰も見てくれない、仕事にならないとマジメに思っていた。
考えに自主性がまるでない、自分がこうしたいより、こうしないとダメだからこうするしかない。これじゃあ上手く行くハズがない。
僕は度々人から言われたのは、「君は広告向きじゃない、広告ってそういうのを言うんじゃない、広告っていうのはね、、、、、、、、、だよ。」と言われた。
別に「、、、、、、、、、」この部分は隠して書かないのではない、書き出すとダラダラ長くなる、どうでもいいことは書く気がしないだけだ。
おもしろいのは、広告に向かないヤツがその後に広告賞を何本も取った現実を彼らはどう説明する?と聞きたいがそんなのはバカらしい、つまり広告はとはそれくらい間口が広くなんでもアリが通用する世界なんだと実感した。ただし広告の王道じゃない枝葉のモノは仕事量が少なく生活は厳しい。
旅をして広告とは何か?について撮りながらいつも考えた、考えたところで業界が変わるわけじゃあるまいが、自分のために考えた、旅に出て最も良かったことは「日本で何もしないで、悶々と悩むより、カメラを持って毎日真剣に向き合って撮って歩いた、アジアのドヤ街を撮ろうが、上海を撮ろうが、ずーっと健康的だ、」何であろうがまずは撮って考えるしかない。
作る前からアタマであれこれ考え行き詰まるのはもっともやってはならない行為だ、自分の情念に潰される、どうせ何をしたって行き詰まるなら散々作って、現実を見て、行き詰まる方がまだ実りがある、でも駆け出しの多くはそうではない、ここにハマって身動きが取れなってやがてダメになる、そこから出られるか、そのまま終わるか、それも実力のうちとしか良いようがない、そんなヤツをたくさん見た。
写真的に能力があるとか、ないとかよりも、実はここをどう切る抜けられるかが最大の難所だ。
旅で撮った写真を何度も繰り返し見て考えた、もちろん国が違うから写る写真が違うのは当たり前だ、でもやはりそこに何か日本にないモノが写っていた、それは何だろうか?あえてそれを言葉に表すなら、それは場の勢いだったり、人間のエネルギーだったり、雰囲気だったり、激しさだったり、その場の命みたいな活気、それらを総称して言うなら「シズル感」というのか?
シズル感とは本来は料理写真の用語だけど、例えばステーキ肉を焼いた時、肉から脂がギュッーと吹き出すギトギトした肉汁が写真に写ってなかったら、決して美味そうに見えない、料理写真はそれをしっかり写るようにあれこれ細工する、それをシズル感と言うが料理以外にも言えることだ。
アジアには強いシズル感の素材がそこかしこにある、日本にはこのシズル感の素材が希薄に感じて仕方がない、何かを撮るにも何をどう撮れば良いのか、そのシズル感がまるでない、ないから自発的に探すか、自分で調達して穴埋めするか、そうしないと表現はカスカスで持たない。
写真に限らず文章でも何でもそうだけど、何かを表現するならシズル感がないと表現、描写が曖昧で何も伝わらない、そのためにもこのシズル感表現をよく理解する必要があると思う。
僕のアジアの旅とはシズル感表現を学びに行った旅だった。

この記事に対するコメント

コメントの投稿

Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://suiheisenbiz.blog52.fc2.com/tb.php/1685-69dee747
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)